EDO弦月人 第1回 早下隆士さん(28回生)

学長は体力勝負だ!

上智大学教授(宮﨑大宮高校 28 回生) 早下隆士

はじめに

上智大学の学長をこの3月で終え、いま、少し肩の荷がおりた気持ちでいます。しかし、ふり返ると学長時代の3年間は、幸せなことに大変充実していました。就任した2014年には、文部科学省のスパーグローバル大学創成支援事業が始まり、グローバル化を先導する大学として(写真1)、この事業を逃すわけには行かない状況でした。構想調書の立案からヒアリングまで大変な苦労もありましたが、副学長や優秀な教職員の助けもあって、「多層的ハブ機能を有するグローバルキャンパスの創成と支援ガバナンスの確立」という本学の構想が、その年の11月に無事に採択されたことは、今ふり返っても本当に嬉しい結果でした。さて4月から研究に専念できる毎日を楽しんでいたところ、IT部の出原さんのお誘いで、今回「エド弦月人」コーナーのトップバッターをお引き受けすることになりました。僭越ではありますが折角の機会ですので、思い出に残った学長時代のエピソードを紹介したいと思います。

外務省からの相談

ちょうど2年前の2015年9月中旬だったと思いますが、外務省の中南米局長補佐から私に面談の申し入れがありました。外務省の局長補佐が、上智大学長に何の相談かなと思いつつも大学に来て頂きました。話しを伺ってみると、9月30日にジャマイカの首都キングストンにある西インド諸島大学と上智大学の大学間交流協定の調印式を、ジャマイカの首相公邸で行って欲しいとのことでした(地図1)。本学はたしかに外務省と関係の深い一般財団法人国際協力推進協会(APIC)の紹介で、 西インド諸島大学との交流協定の話しを進めてはいましたが、調印は 2016年3月に行う予定でした。詳しく話しを伺うと、実は安倍総理大臣がニューヨークで開催される国連総会に出席予定で、その帰りにジャマイカを公式訪問する外交日程を準備しているとのこと。ついては日本とジャマイカの大学間の交流推進のための調印式を、訪問時の目玉企画の一つにしたいとの話しでした。外務省からの突然の依頼話ですが、上智大学のプレゼンスを高める良い機会になることは間違いありません。準備期間はわずか10日間でしたが、この話をお引き受けすることにしました。

いざジャマイカへ

予定されていた日本での学長校務をキャンセルし、本学の局長経験者の職員とともに9月29 日の夕方に成田から米国のケネディー空港経由で、ジャマイカのキングストンに向かいました。しかし急な海外出張でしたので、まともな乗り継ぎ便が見つかりません。結局、ケネディー空港には同日の16時頃に到着したのですが、同空港からキングストンへの乗り継ぎ便は、翌日午前2時でした。ケネディー空港まではビジネス便で来たものの、乗り継ぎ便のチェックインカウンターが午後10時まで開かないために、休息できるラウンジも使えません。混雑する待合席に同行職員と二人で座り、6時間の間、カウンターが開くのをじっと我慢して待ちました。キングストンに到着したのは、翌日の明け方でした。ホテルで朝食をとり、タクシーで市内の西インド諸島大学に向かいました。
西インド諸島大学は、西インド諸島の英語を公用語とする17の国と地域が運営するカリブ海で最も大きな大学です。ジャマイカ・キングストンのモナキャンパス、トリニダード・トバコのセント・オーガスティンキャンパス、バルバドスのケイブヒルキャンパスからなる3つのキャンパスがあります。オリンピックの短距離走で有名なジャマイカのウサイン・ボルト氏は、このモナキャンパスの陸上トラックでいつも練習しているそうです。モナキャンパスに到着すると、早速、西インド諸島大学のベッケルズ副総長が迎えてくれました(写真2)。上智大学との学術交流に関する話しを詰めるとともに、カリブ海諸国の気候変動に関係する環境問題を含めた共同研究所開設の可能性を話し合い、その後、モナキャンパスの医学部や基礎・応用科学部、そして陸上競技場を見学させて頂きました。その後ホテルに戻り、午後の調印式が行われるジャマイカの首相公邸に向かいました。

安倍首相、ミラー首相立ち会いの調印式

公邸には多くの新聞記者や、アルゼンチンやチリなど中南米の在日本大使館職員が応援に駆けつけていました。
安倍首相が到着し、ジャマイカのミラー首相との首脳会談のあと、安倍首相、ミラー首相の立ち会いのもと、私とベッケルズ副総長による学術交流に係る了解覚書の調印式を行いました(写真3)。この様子は、外務省のホームページで紹介されたほか、西インド諸島諸国の有名新聞の一面でも取り上げて頂きました。上智大学のプレゼンスを十分に高めることができたことは、誠に大きな成果でした。夕方には首相公邸の晩餐会に招待され、ジャマイカのトップミュージシャンによるレゲー音楽を聴きながら、ワイン片手にこれまで食べたことのないスパイシーで美味しいロブスターも堪能しました。ホテルに戻ったのは夜の10時近くでしたが、同行してくれた職員と一緒にホテルのバーに行き、ジャマイカラム酒で成功を祝いました。帰りの便は翌朝のフライトだったために、わずか3時間の仮眠のあと、明け方3時にホテルを後にしてキングストンの空港に向かい、3泊4日、機中2泊のハードスケジュールの出張を無事に終えることができました。もちろん帰りもケネディー空港での長い待ち時間を、二人で楽しんだことは言うまでもありません。

おわりに

ちなみに10月2日の午後10時に成田に到着して埼玉の自宅に帰りましたが、10月3日に広島で上智大学地域ソフィア会全国大会の開催が予定されていたため、翌朝一番の新幹線に乗り広島に向かいました。もちろん、学長として全国大会総会と懇親会、そしてソフィア会に準備頂いた2次会、3次会まで参加しました。今ふり返ってみても、このようなハードスケジュールを滞り無くこなせるのは、宮崎大宮高校時代にバレーボールで鍛えた体力が大きな土台になっているとつくづく思わずにはいられません。学長職はまさに体力勝負!皆さん、もやしっ子では戦えません、文武両道を目指しましょう!

1)地図1は、以下の URL から引用、加工して作図しています。
http://gemuetlich2011.blog.fc2.com/blog-entry-109.html
http://www.eastedge.com/c_america/jamaica/

早下隆士さん(28 回生)の略歴

氏名:早下 隆士(はやした・たかし)
1958 年 3 月 6 日生まれ、宮﨑県出身(満 59 歳)
専門は、分析化学、超分子化学。
1980年九州大学工学部卒業。82年同大学工学研究科修士課程修了。85年同研究科博士課程修了。
工学博士(九州大学)。神奈川大学工学部助手、米国テキサス工科大学博士研究員、佐賀大学理工学部助教授、東北大学大学院理学研究科助教授を経て、2005 年より上智大学理工学部教授、2009 年理工学研究科科学専攻主任、2010 年理工学部長、理工学研究科委員長、2014 年 4 月から2017 年 3 月まで上智大学学長。
この間、日本学術振興会特別研究員等審査会専門委員, 国際事業委員会書面審査委員、科学技術振興機構科学技術人材育成費補助金・女性研究者研究活動支援事業審査委員、日本カトリック大学連盟会長、日本私立大学連盟常任理事、大学基準協会評議員、日本カトリック学校連合会評議員、日本私立大学団体連合会代議員、国際教育交流協議会(JAFSA)副会長、大学改革支援・学位授与機構専門委員、東京大学新領域基盤科学研究系専門評価委員会委員などを歴任。日本化学会、日本分析化学会、アメリカ化学会、日本イオン交換学会、シクロデキストリン学会、ホスト—ゲスト・超分子化学研究会に所属。主な著書に「分子認識と超分子」(三共出版、2007年)がある。

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